紙銭しせん)” の例文
「わしが死んだ後に、家内の者が仏事をやって、しこたま紙銭しせんを焚いたので、冥府じごくの役人が感心して、それで送り還してくれたのだよ」
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その前の、埃のつもった床に、積重ねてあるのは、紙銭しせんであろう。これは、うす暗い中に、金紙や銀紙が、覚束おぼつかなく光っているので、知れたのである。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
楊は書き役の者に命じて、かの一件の記録を訂正させ、さらに紙銭しせん十万をいて、かれらの冥福を祈った。
で、彼は試みに飲んでみると、その味は水のごとくで、歯に沁みるほどに冷たくなっていた。和子は急いで我が家へ帰って、衣類諸道具を売り払って四十万の紙銭しせんを買った。
許宣も本堂の前で香をくゆらし、紙馬しば紙銭しせんを焼き、赤い蝋燭に灯をともしなどして、両親の冥福を祈った。そして、寺の本堂へ往き、客堂へあがってときい、寺への布施ふせもすんだので山をおりた。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのうちに七月が来て、盂蘭盆会うらぼんえの前夜となったので、詹の家では燈籠をかけて紙銭しせんを供えた。紙銭は紙をきって銭の形を作ったもので、亡者の冥福を祈るがためにいて祭るのである。