粟餅あわもち)” の例文
だから悪く思わんで置け。一体盗森は、じぶんで粟餅あわもちをこさえて見たくてたまらなかったのだ。それで粟も盗んで来たのだ。はっはっは。
狼森と笊森、盗森 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そしてこの材料を入れて粟餅あわもちを製するのだが、その時は粟を蒸籠せいろうに入れその上に乾かしておいたホウコグサを載せて搗き込むと粟餅が出来るのである。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
投げると申すと失敬に当りますが、粟餅あわもちとは認めていないのだから、大した非礼にはなるまいと思います。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こうなると、それにれてまた色々な飲食店が出来て来る。粟餅あわもち曲搗きょくづきの隣りには汁粉屋しるこやが出来る。
赤門を出てから本郷ほんごう通りを歩いて、粟餅あわもち曲擣きょくづきをしている店の前を通って、神田明神の境内に這入る。そのころまで目新しかった目金橋めがねばしへ降りて、柳原やなぎはら片側町かたかわまちを少し歩く。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
あの粟餅あわもちのふかしたてだの、白玉焼の餡子あんこのはみ出した処なんざ、今思出しても、つばが垂れる。小僧、立つな立つな見ていて腹はくちくならない、と言われた事さえあるんだから。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雛妓は席へつくと、お土産みやげといって折箱入りの新橋小萩堂の粟餅あわもちを差し出した。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「悪く思わないで呉ろ。栗だのきのこだの、うんとご馳走ちそうしたぞ。」と叫ぶのがきこえました。みんなはうちに帰ってから粟餅あわもちをこしらえてお礼に狼森へ置いて来ました。
狼森と笊森、盗森 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
やがて、白い男は自分の横へ廻って、耳の所をり始めた。毛が前の方へ飛ばなくなったから、安心して眼を開けた。粟餅あわもちや、餅やあ、餅や、と云う声がすぐ、そこでする。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)