まば)” の例文
まばらな歯を一パイに剥き出してニタニタと笑っている……という場面で、見ているうちにだんだんと真に迫って来る薄気味の悪い画面であった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
橋の向うは街灯がまばらで薄暗かった。その薄暗い中に群集が溢れていた。大勢の巡査が街路の真中に立っていた。騎馬の兵士が時々往ったり来たりした。
群集 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
よく見るとその裂片にはまばらな鋸歯があって、茎の形状も違っているし、棉の丸いのにくらべて、一方は先の尖った長めの楕円形にこわい毛を持っていた。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
で、腰を下ろしながら気がついたのだが、何だか眼のまえの芝生にまばらながら人だかりがしている。
葉の散った柳の細い枝影を、派手な大柄な絣の米琉の着物にまばらに受けて、一二歩先で足を止めて私の方を振向いた彼女の姿が、堀の水と空とを背景にくっきりと浮出して見えた。
或る男の手記 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
忽ちまばらな拍手が起った。その音に連れて、眼の前の靄がズ——ウと開いた。楽屋の入口から燕尾服えんびふくを着た日本人と、水色の礼服を着たカルロ・ナイン嬢が静々と歩み出して来るのが見えた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)