籠堂こもりどう)” の例文
夜半になると、正成はひとりで籠堂こもりどうへ移って夜をあかした。ほとけと共に明かした朝はそう眠りもしていなかったのに体もあたまも清々すがすがとしていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
籠堂こもりどうに寝て、あくる朝目がさめると、直衣のうし烏帽子えぼしを着て指貫さしぬきをはいた老人が、枕もとに立っていて言った。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大峰山——山上ヶ岳の籠堂こもりどうで案内人どもが縦走のなかなか苦しいことを語り、むやみに傭ってくれと言う。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
白衣に緋を重ねた姿だと思えば、通夜の籠堂こもりどうに居合せた女性にょしょうであろう。小紋の小袖に丸帯と思えば、寺には、よき人の嫁ぐならいがある。——あとで思うとそれもおぼろである。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ちと、物をたずねたいが、あの長谷の観音の籠堂こもりどうと申すのは、誰が行っても差支えないか」
わが子を縁から蹴落けおとし出家入道をげた西行法師さいぎょうほうしが、旧愛の妻にめぐり会ったという長谷寺の籠堂こもりどう。竜之助はともかくもここで夜を明かそうとして、その南の柱の下に来ました。
蔦王をも、その日、帰してしまい、彼は籠堂こもりどうでいよいよ孤独を愉しんでいた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはこれ、昨夜を長谷はせ籠堂こもりどうで明かしたはずの机竜之助でありました。