籐表とうおもて)” の例文
ああいう人たちのはく下駄げたは大抵籐表とうおもて駒下駄こまげたか知ら。後がへって郡部の赤土が附着くっついていないといけまいね。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
紅い鼻緒の立った籐表とうおもての女下駄が、日ぐれどきの玄関のうす明りに、ほんのりと口紅のように浮んでいるのを見たとき、たしかに家にいるということが感じられた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
かしら籐表とうおもてを打った、繻珍しゅちんの鼻緒で、桐のまさという、源次が私生児を引放ひっぱなして、片足打返して差出した。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小僧たちの顔を見ると、一様に不安そうな目色をして、酔漢よっぱらいを見守っている。奥の方でも何だかごてついているらしい。上り口に蓮葉な脱ぎ方をしてある、籐表とうおもての下駄は、お国のであった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その癖かどの戸はしまっている。土間が狭いから、下駄が一杯、ステッキ洋傘こうもりも一束。大勢あんまひまだから、歩行出あるきだしたように、もぞりもぞりと籐表とうおもての目や鼻緒なんぞ、むくむく動く。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)