筑摩ちくま)” の例文
その辺は仮の戸長役場にも近く、筑摩ちくま県と長野県とに分かれた信濃の国の管轄区域を合併して郡県の名までが彼の留守中に改まった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
佐渡ではまたトットバナ、信州でも伊那では鴨跖草がトテッコ花であり、またオンドリ花ともいうが、筑摩ちくま郡へ行くと萱草わすれぐさがトテッコウまたはトテコッコである。
「かんが川は、筑摩ちくまの支流で、越ゆるに難儀なほどではない。城兵の半分を向けても、おそらく鎧袖一触がいしゅういっしょくでしょう。——むしろ、近々と引き寄せて、全力でこれを撃つべきです」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諏訪の盆地は隠れて見えず、鉢伏はちぶせ立科たてしなが後ろからのぞき、伊奈いな筑摩ちくま山巒さんらんが左右に走る。遠くは飛騨境ひだざかいの、槍、穂高、乗鞍等を雲際に望むところ。近くは犀川さいがわと、天竜川とが、分水界をなすところ。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
松本まで彼が動いた時は、ちょうどこの時勢に応ずる教育者のための講習会が筑摩ちくま県主催のもとに開かれているおりからであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
信州筑摩ちくま安曇あずみの各村などでは、この一年一度の大切な祝の日を、普通にはコバシャゲと謂っている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
西筑摩ちくまの郡書記として勤め先にあった宗太はこの通知に接し、取るものも取りあえず木曾路を急いで来て、祭りの日の午後に馬籠に着いた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
地方によってはこの鳥を三光鳥さんこうちょうともいって、「月星日つきほしひ」と啼くというのが、信州の諏訪すわ筑摩ちくまではミノカサキー、奥州のどこかの田舎ではアケベエキー、即ちあかい衣をよと聴いていた時代もあった。