端正きちん)” の例文
姉の円髷ばかり、端正きちんとして、とおりを隔てて向合むかいあったので、これは弱った——目顔めがお串戯じょうだんも言えない。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
羽織はなしに居ずまいも端正きちんとしたのを、仕事場の机のわきへ据えた処で、……おなじ年ごろの家内が、糠味噌ぬかみそいじりの、たすきをはずして、渋茶を振舞ってみた処で、近所のすしを取った処で
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一目見ても知れる、濃い紫の紋着もんつきで、白襟、長襦袢ながじゅばん。水の垂りそうな、しかしその貞淑を思わせる初々しい、高等な高島田に、鼈甲を端正きちんと堅く挿した風采とりなりは、桃の小道を駕籠かごりたい。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……由紀は仏間に一人、蚊帳に起きて端正きちんと坐って、そして目をつぶって、さきから俯向いて一人居たのだそうですが、二階の暗がりに、その有様が、下の奥から、歴々ありありと透いて見えたのですから。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)