空室あきべや)” の例文
とにかく二十分ほど、がらんとした空室あきべやの中へ靴のまま上がって、窓框まどかまちに腰をかけて待っているうちに神村は出てゆきました。
アパートの殺人 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
赤岩氏が同アパートの空室あきべやに秘密運搬中の、鉱山用の火薬類が、取扱いの不注意の為めに発火したものと、少女エラ子に絡まる情痴関係の殺人が
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
看護婦の払塵はたきの声がここかしこで聞こえた。自分はまくらを借りて、三沢の隣の空室あきべやへ、昨夕ゆうべの睡眠不足を補いに入った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勿論、空室あきべやでも、鎖されていたのではないから、ほとんど跡は残らぬし、死後はけっして固く握れるものじゃない。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
このまま帰るのも残念だから久々に一夜温泉につかってノンビリしようと志したところが、今日は土曜日で全市に空室あきべやが一ツもないという返事じゃないか
神サマを生んだ人々 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
お菊の身体は若侍の一人に軽がると抱かれて台所の隅の空室あきべやに運ばれた。
皿屋敷 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つい今先刻さっき、吾輩がここを出かける時まで空室あきべやであった、あの六号の病室にアカアカと電燈がいている。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)