秘帖ひじょう)” の例文
お綱から一角が奪い、一角の死骸からお十夜がかすめ取った世阿弥の秘帖ひじょうは、とうとう思うつぼに、自分のふところへ転げこんで納まっている。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、生ける者の不幸とともに、あの秘帖ひじょうにそそぎこまれてある、甲賀世阿弥の尊い血汐に対して会わせる顔があろうか。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
周馬は斬り仆したが大事な秘帖ひじょうは見当たらない。弦之丞はまだ右腕の銃痕じゅうこんがまったくえていないし、駕のうちには、かよわいお千絵様がいる。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今、水をしめしに行った留守に、世阿弥のそばへおいた大事な秘帖ひじょうが、わずかな間にくなっていた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その雲のうちには、甲賀世阿弥が、今も血汐の筆をとって、秘帖ひじょうに精をしぼっているだろう。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間者牢かんじゃろう柵外さくがいに、山番が焼飯のかてをおいてゆくのを取りに出る時と、渓流けいりゅうへ口をそそぎにゆく時のほかは、洞窟どうくつの奥にのめも見ず、精と根を秘帖ひじょうにそそいで、ここに百四十日あまり
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とうとう傷負ておいの一角に死にもの狂いに振りほどかれて、絶壁の岩角いわかどから、大事な秘帖ひじょうとともに、かれの姿も見失ってしまったので、悲嘆と絶望にくれて、世阿弥の亡骸なきがらにすがっていた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)