破垣やれがき)” の例文
もとからの耕地でないあかしには破垣やれがきのまばらに残った水田みずたじっと闇夜に透かすと、鳴くわ、鳴くわ、好きな蛙どもが装上って浮かれて唱う、そこには見えぬ花菖蒲、杜若かきつばた
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
破垣やれがきに日の照りまぶし思はぬにほつつりと一つ雨の粒落ちぬ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
は更けて、夏とはいえど、風冷々ひやひやと身に染みて、戦慄ぞっと寒気のさすほどに、えいさえめて茫然と金時は破垣やれがき依懸よりかかり、眠気つきたる身体からだ重量おもみに、竹はめっきと折れたりけり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
破垣やれがきにはづかにのこるの明りぬかになれば雨そそぐ音
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
引かれて、やがて蔭ある処、小川流れて一本の桐の青葉茂り、紫陽花の花、流にのぞみて、破垣やれがきの内外に今を盛りなる空地の此方に来りし時、少年は立停りぬ。貴女はほと息つきたり。
紫陽花 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
雨ほそき破垣やれがきちかくひそひそと田を鋤く人の馬叱るこゑ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
横腹よこっぱらを抱えて、しょんぼりと家へ帰るのに、送って来た友だちと別れてから、町はずれで、卵塔場の破垣やれがきの竹を拾って、松並木を——少年こどもでも、こうなると、杖にすがらないと歩行あるけません。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)