白首しろくび)” の例文
また赤坂新町辺芸者家に接したる裏町にも白首しろくびいつとはなく集り住みて人の袖を引きしが、この二箇処いづれも大正五年以後妖婦の跡を絶ちぬ。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ワルゼエはよく淫売狩をもつた男で、何でもその当時巴里で名うての白首しろくびを情婦にして、内職には盗賊どろぼうを稼いでゐた。
十二階が崩壊しても階下に巣喰った白首しろくびは依然隠顕出没して災後の新らしい都会の最も低級な享楽を提供している。
大阪に商売人が集るのもかまさき乞食こじきが集るのも、東京へ文芸が集るのも、支那に支那人が多いのも銀座にカフェが出来るのも十二階下に白首しろくびが集るのも
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
御承知かも知れませんが、赤城下はその以前に隠し売女ばいたのあったところで、今もその名残なごりで一種の曖昧茶屋のようなものがある。そこの白首しろくびに藤吉は馴染が出来て、余計な金が要る。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
貴夫人、令嬢、奥様、姫様ひいさまとなるを得むや。ああ、淑女のめんの醜なるは、芸妓、娼妓、矢場女、白首しろくびにだもかざるなり。如何いかんとなれば渠等かれらは紅粉を職務として、婦人の分を守ればなり。
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
吉原の公娼新橋の芸妓をさし置きて浅草の白首しろくびを退治するが如きは蓋し本末を誤るの甚だしきものというべし。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ここにおいてや明治四十一、二年の頃より大正三、四年の頃まで浅草十二階下、日本橋浜町蠣殻町にほんばしはまちょうかきがらちょう辺に白首しろくびおびただしく巣を喰ひ芸者娼妓これがために顔色なかりき。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
山の手の賤妓は揮発油きはつゆの匂をみなぎらしてお座敷に来り、カッフェーの女給仕は競馬石鹸の匂芬々ふんふんとして新粧を凝し千束町の白首しろくびは更にアルボース石鹸の臭気をいとわず。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)