白面しらふ)” の例文
仙太は、この町での飲みがしらであった。酒にかけてはかなうものがいない。この親爺が白面しらふで歩いているのを、町の人たちは見かけたことがないという。
凍雲 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
飲酒常習者の白面しらふは兎角はにかみ易いものであるが、こんな風に閑さへあればあちこちと歩きまはつてゐるうちに、次第にわたしは健康を取り戻し
或るハイカーの記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
等と相手も劣らず呂律ろれつが怪しい。焼酎を始終飲むそうだから酔った時の影響が白面しらふになっても残っているのだろう。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
が、笑つちやあいけない、平生ならとてもこんなことが白面しらふで云へたもんぢやあないさ。處が驚くかと思ふと
S中尉の話 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
白面しらふでもって、そんないやらしいものを見られるものじゃありゃしない。これは随分変態的な男であるとあきれるよりほかなかった。でもどうしたというのであろう。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それでは先生に伺って……を、毎日くりかえされた日には、白面しらふな者だって、しまいには病人になってしまう、どう考えて見ても、病院は私の性に合わないけれど
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
さきごろ金蔵を召捕ったのも、彼がしたたかに酔っていたからで、もしも白面しらふであったらば或いは取り逃がしたかも知れないと、お力は云った。それは半七も薄々察していた。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
全くの白面しらふなんだ。そして声をかけながら、咄嗟にその女の手を握ってしまった。はっと思った時には、女は何やらがーんと響く声を立てながら、僕に武者振りついて来ようとしている。
或る素描 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
何ぞと云うと命を助けた疵が出来たと恩がましい事を仰しゃっていやらしい、此の間は御酒の機嫌と思いましたが、今の様子のは御酒も飲まずに白面しらふ狂人きちがい、そんな事を仰しゃっては実に困ります
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「なんて優しいお父さんだろう、白面しらふのときには」と彼女は考えた。
此方では商談は大抵斯ういうところか尚一層もっと高級なところでやる。白面しらふじゃう/\思い通りのことは言えない。そこは狂い水の功徳、有難いものさ。取引は喧嘩と同じで大概酒の上だからね。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「大変真面目な顔をしていた。そしてこんなことを云うんだ、『余りお世話になってるんで、旦那の家へはどうも白面しらふでは伺い悪うござんして。』とね。あれで酒を飲まなければ正直ないい奴だ。」
田原氏の犯罪 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それも新婚当時は白面しらふでいて
小問題大問題 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)