田夫でんぷ)” の例文
勝景は多少のインスピレイシヨンを何人なんぴとにも与ふる者なり。故に勝景は如何なる田夫でんぷ野郎をも詩気しふうを帯びて逍遙する者とならしむるなり。
松島に於て芭蕉翁を読む (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
庄太夫大いによろこび、二八よくも説かせ給ふものかな。此の事我が家にとりて二九千とせのはかりごとなりといへども、香央かさだは此の国の貴族にて、我は氏なき三〇田夫でんぷなり。
すなわち通人粋客に対して、世態に通じない、人情を解しない野人やじん田夫でんぷの意である。それよりいて、「ひなびたこと」「垢抜のしていないこと」を意味するようになってきた。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
許褚は、元来、田夫でんぷから身を起して間もない人物なので、あまりの晴れがましさに
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田夫でんぷ または 田婦が、馬の脊に 乗せた 青物
札幌の印象 (新字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
田夫でんぷ野人やじんと呼ばれる彼らのうちには、富貴の中にも見られない真情がある。人々は、食物を持って来て玄徳に献げた。またひとりの老媼おうなは、自分の着物の袖で、玄徳の泥沓どろぐつを拭いた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「田野のなかにも、無智な田夫でんぷばかりはいない。真実をわきまえている怖ろしい民もいる。……世はみだれても、やはりかわらぬ皇国みくに、そこの土に生きる民くさ、明国みんこくや朝鮮とはちがう」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつて出会った幾多の達人中にも考え出されないほど、この泥くさい田夫でんぷの体の爪の先までが、武術の「道」にかない、そして武蔵も求めてやまない、その道の精神力に光っているのだった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寒村の田夫でんぷから身を起し、義旗をひるがえしてからすでに両三年、戦野のしかばねとなりつるか、洛陽の府にさまよえるか、と故郷には今なお、わが子の我を待ち給う老母もいる。なんで大志を失おうや。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)