為替かはせ)” の例文
旧字:爲替
ゆき子は妊娠してゐた。富岡に三度ほど手紙を出したが、富岡からは、そのうち行くと云ふ返事が一回あつたきりで、その時、五千円の為替かはせを送つて来た。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
小夜子は別れて静岡の姉の家に身をよせたが、亨一は之に対して生活費を為送しおくる義務を負つて居た。毎月為替かはせにして郵送するのがすず子の為事の一つであつた。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「彼れが少くとも一商人であると云ふ事は、彼れの為替かはせ相場に関する豊富な知識なぞに照しても、充分推定し得る。然し彼れは今や恐らく破産してしまつたのだ。」
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
父の存命中は毎月為替かはせで送つて居たが、今は其をる必要も無いかはり、帰省の当時大分つかつた為に斯金このかねが大切のものに成つて居る、彼是かれこれを考へると左様無暗には費はれない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
寿枝は帰ると為替かはせを組んで、夏服代だと百円送つたが、その金はすぐ送り返されて来た。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
事理わけを聞いて見ると、気の毒であつたから、国から送つてばかりの為替かはせを五円引いて、余りは悉くして仕舞つた。まだ返す期限ではないが、広田の話を聞いて見ると少々心配になる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お産の前後、磯村は二三度、自身彼女に金を届けたり、為替かはせを組んだりした。それは磯村に取つては可也かなり骨の折れる仕事であつた。そして子供の顔を見た彼女の慾望が、段々大きくなつて行つた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
姉さんのときでもお前のときでも、お祝はたつた二円の為替かはせですよ。
世帯休業 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
独逸ドイツの状態がだんだん悪くなり、為替かはせ相場も急転して下つた。九月廿七日には十四ばかり行はれる筈の国民党の集会が禁ぜられ、集会所や大きな麦酒ビール店をば軍隊と警官とで厳しく固めたこともあつた。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
友のなさけの為替かはせのかなしさ。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
手紙を出してから、五日ばかりして、富岡から五千円の為替かはせを封入して、君に逢ふのも、もう二週間ほど待つてくれ、いま、一番、自分の苦しい時なのだから、誰にも逢ひたくない。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)