濡羽ぬれば)” の例文
濡羽ぬればのような島田に、こってりと白粉の濃い襟足を見ると、ゾッとして、あこがれている脂粉しふんの里に、魂が飛び、心がもだえてきました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
嫋々なよなよとして女の如く、少し抜いた雪のえり足、濡羽ぬればいろの黒髪つやつやしく、物ごしやさしくしずしずと練ってゆく蓮歩れんぽ
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それからまだその上に、それは/\いゝお髮なので——烏の濡羽ぬればといふやうな眞黒まつくろな色で、それがまた大變よくおうつりになるやうに揚げてゐらつしやいました。
南無三宝なむさんぽう! 私は恥を言おう。露に濡羽ぬればの烏が、月のかつらくわえたような、鼈甲べっこう照栄てりはえる、目前めのさきの島田の黒髪に、魂を奪われて、あの、その、旅客を忘れた。旅行案内を忘れた。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いそがしく濡羽ぬればつくろふ雀ゐて夕かげり早し四五本の竹
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この前の、わざとった高髷たかまげとは変って、今夜は、長い、濡羽ぬればいろの黒髪を、うしろにすべらして、紫の緒でむすんで、あかい下着に、水いろの、やや冷たすぎるようなあや寝間着ねまき——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)