にわたずみ)” の例文
池は小さくて、武蔵野の埴生はにゅうの小屋が今あらば、そのにわたずみばかりだけれども、深翠ふかみどり萌黄もえぎかさねた、水の古さに藻が暗く、取廻わした石垣も、草は枯れつつこけなめらか
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
森の中の瀝青チャンのような、くろずんだ水溜りは、川流が変って、孤り残された上へ、この頃の雨でにわたずみとなったのであろう、その周囲には、緑の匂いのする、かびの生えた泥土があって、くるぶしまで吸いこまれる
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
春雨を豊かに吸うた境内の土、処々に侘しく残ったにわたずみ、古めかしい香いのする本堂、鬱然うつぜんとして厳しく立ち並んだ老木の間には一筋の爪先き上りの段道がある。その側には申し訳のような谷川がある。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その後を水が走って、早や東雲しののめの雲白く、煙のようなにわたずみ、庭の草を流るる中に、月が沈んで舟となり、へさきさっと乗上げて、白粉おしろいの花越しに、すらすらといで通る。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)