漂然ひょうぜん)” の例文
妹のものに違いないのですが、さっき漂然ひょうぜんと帰宅した本物の妹も、あれと同じ衣類を着、同じハンドバッグや、コンパクトなどを持っているのです。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そういうふうに彼は二年も三年も漂然ひょうぜんといなくなって、現れるとムッツリとした風貌ふうぼうを示し、やがてまた人々に送られて、至極満足そうなニコニコ顔で出かけた。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そうしてなかば静養を口実に、好きな旅にばかり出ているようだったが、夏のさなかの或る日なんぞ、新しく出来た愛人を携えて、漂然ひょうぜんと軽井沢に立ち現われたりした。
木の十字架 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかも今宵という日に、漂然ひょうぜんともどって見えられた。しかも生きていられ健やかであった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
予もまた今年の五月の初め、漂然ひょうぜんとして春まだ浅き北海の客となった一人である。年若く身はせて心のままに風と来り風と去る漂遊の児であれば、もとより一攫千金いっかくせんきんを夢みてきたのではない。
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
二人が手を取り合って、最後の覚悟を語りあっているところへ、横合から漂然ひょうぜんと流れて来た一個の巨船きょせん——それこそ意外中の意外、というべき猿田飛行士が乗り逃げをしたはずの新宇宙号だった。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)