湯銭ゆせん)” の例文
「チョット。あたしは洗濯物をば取り込まにゃならぬ。一足先に帰るけに、お前はあとから帰って来なさいよ。湯銭ゆせんは払うてあるけに……」
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
流しの木札きふだの積んであるそばに銅貨がばらばらに投出したままになっているのは大方隠居の払った湯銭ゆせんであろう。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あきれた野郎だ。十手なんか内懐うちふところに突っ張らかして、わずかばかりの湯銭ゆせん誤魔化ごまかしゃしめえな」
の目たかの目の捕手や、六尺棒をもってつきあいに出た番太郎ばんたろうが、みすみす二度も三度も前を通っている、横丁の銭湯へ七文の湯銭ゆせんを払って、そこの女湯に、のびのびとして温まっている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
湯銭ゆせんをなくすと、たいへんだからな。」と、おじいさんは、いいました。
かたい大きな手 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「お勝手元不如意ふにょいと言ったところで、こちとらのように、八もん湯銭ゆせんに困るなんてことはねえ」
兼太郎がこの感慨は湯屋の硝子戸を明けて番台のものに湯銭ゆせんを払う時殊更深くなる事がある。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「なんで、湯銭ゆせんなしに、はいれるものか。」
かたい大きな手 (新字新仮名) / 小川未明(著)