温気おんき)” の例文
ただ道也先生がこの一点の温気おんきなき陋室ろうしつに、晏如あんじょとして筆硯をするの勇気あるは、外部より見て争うべからざる事実である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日はもうとっぷり暮れて、斗満とまむの川音が高くなった。幕外そとは耳もきれそうな霜夜しもよだが、帳内ちょうないは火があるので汗ばむ程の温気おんき。天幕の諸君はなおも馳走に薩摩さつま琵琶びわを持出した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「それはデマだろう。宰相閣下はあのとおり丈夫な方で……いや、しかしこのような温気おんきには初めてわれて、おまごつきかもしれない。おい、貴公は寒暖計を持っているか」
月はまだそらのなかにいる。流れんとして流るる気色けしきも見えぬ。地に落つる光は、ゆる暇なきを、重たき温気おんきに封じ込められて、限りなき大夢を半空にく。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)