渦紋かもん)” の例文
そしてそのままじっと鉄びんから立つ湯気ゆげが電燈の光の中に多様な渦紋かもんを描いては消え描いては消えするのを見つめていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
早暁の町のアスファルトの上を風に吹かれて行く新聞紙や、スプレー川の濁水に流れる渦紋かもんなどはその一例である。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それもつか薄青うすあお渦紋かもんにかわり、消えてしまった。しかし、ぼく達は、相手のない、不敵さで、ただ、漕いだ。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
時めくとうノ中将殿であるからだ。おそらくその唐突とうとつ出仕しゅっしに殿上でもまた同じような怪しみと静かな驚きの渦紋かもんがよび起されていたことであったろう。
一つひとつの星の象徴が、皮膚の渦紋かもんとなって人間のたなごころにありありと沈黙していたのだ。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼れの眼の前を透明な水が跡から跡から同じような渦紋かもんを描いては消し描いては消して流れていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
つまり夜光の短刀をめぐるお蝶と日本左衛門とにからむ探索の手がかりも、渦紋かもんがこの江戸表へ移ってから一層迷路の霧につつまれてしまった様子で、さすがの目明し釘勘も
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)