深酷しんこく)” の例文
蕪村はこの悲哀を感ずることで、何人よりも深酷しんこくであり、他のすべての俳人らより、ずっと本質的に感じやすい詩人であった。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
だから会っても深酷しんこくな話はひとつもない。例のごとく、こしゃこしゃした笑顔えがおで、不順序ふじゅんじょに思う事をいう。矢野が少し話をすれば大木はすぐのみこんで同情する。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ことに、今度はその喧嘩がいつもと違つて深酷しんこくで、これではとても駄目だと誰も思つたさうだ。ところが、丁度その時雷雨があつた。何でもヒドい雷雨だつたさうだ。
迅雷 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
われわれの連中はただぼんやりとその深酷しんこくな感じにうたれて静かに眺めているのであった。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
どうした事かいまだにが熟さない、芝居の千本桜の狐忠信の鼓は少し馬鹿馬鹿しいが、謡曲の「綾の鼓」はいかにも深酷しんこくで、これは少し舞台を考えるとそのまま小説になるだろう。
探偵小説と音楽 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
牛乳色によどんだ室内の空気のなかで、深酷しんこくな血の吸い合いが初まっていた。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
喉仏をヒクヒクと鳴らして、深酷しんこく嗚咽おえつがこみ上げて来たのでした。