洗滌せんじょう)” の例文
ちょっと労働でもして血液中の水素イオン濃度がわずかに一億分一だけ増すとすぐ呼吸がせわしくなって血液中の炭酸ガスを洗滌せんじょうさせる。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
こんなことを、貞操蹂躙ていそうじゅうりんとか色魔しきまとか云って大騒ぎする奴の気が知れない。『洗滌せんじょうすれば、なにごともなかったと同じように清浄になるのだ』
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
言い換えれば、下水道を洗滌せんじょうするようになるであろう。下水道の洗滌という語に吾人がいかなる意味を持たしてるかを、読者は既に知っているはずである。
道三はそう告げてから、また諸所に横臥おうがしている怪我人を見まわった。金創きんそう洗滌せんじょうやら、繃帯ほうたいやら、くすり塗布に当っている門生たちと共に、自分も負傷者の治療へかかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぜなら、こな茶は茶の残りを集めたいわば茶のくずであるから、ほこりなどがまじっていよう。これを洗滌せんじょうする意味で、ざるの中に入れた茶に水をさすと、乳白色に水がよごれてこぼれてくる。
鮪の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
彼女は病室用の食器類は全然下女達の手をりず、煮焚きから持ち運びから、洗滌せんじょうまでを自分が担当し、高熱が続いた一週間程の間は、夜は看護婦と交代して二時間置きに氷嚢ひょうのうを取り換えなどして
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すぐに三毛をかかえて風呂場ふろばにはいって石鹸せっけん洗滌せんじょうを始めたが、このねばねばした油が密生した毛の中に滲透しんとうしたのはなかなか容易にはとれそうもなかった。
子猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あの惨劇のあった後犯人はひそかに、青酸を塗った目盛盤を外し、これを綺麗に洗滌せんじょうしようと思って此の室にやって来たのです。しかるに犯人のために不幸な出来事が突発した。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その上になお冷水浴、草の帯、鉛板着用、鉛酸液の洗滌せんじょう、酸水剤の温蒸。
それからまた、胃の洗滌せんじょうをすると言って長いゴム管を咽喉のどから無理に押し込まれたとき、鼻汁はなじるといっしょにたわいなくこぼれる涙に至っては真に沙汰さたの限りである。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)