欣々きんきん)” の例文
でも、どうやらこうやら父から出資させる事になって老爺さんは欣々きんきんと勇んだ。情にもろくって、金に無頓着むとんじゃくな父は、細かい計算をよくまなかった。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
なにかは知らぬながらも、すぐと百合江がうちうなずいて、欣々きんきんとしながら立ち去りましたものでしたから、右門はすばらしく朗らかにいったものです。
屏風びょうぶを立て廻して同じ広間の中へ、平間と糸里、平山と小栄の二組も、床をべさせて夢に入る。芹沢が欣々きんきんとしていたのは近藤をはかり得たと思ったからです。
「僕の想像は間違っていなかった」明智は欣々きんきんとして人々の方をふり向いた。「やっぱり真犯人は外にあったのです。三千子さんは小松を殺した訳ではないのです」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三人はすぐそれをボートのうしろにつけてひきながらふたたび川をわたり、湖をすぎてその夜ぶじに、ニュージーランド川についた。ほらに帰れば一同は欣々きんきんとして出むかえた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
中尉はきょうも葬式よりは婚礼の供にでも立ったように欣々きんきんと保吉へ話しかけた。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小生フランネルの単衣を着て得々欣々きんきんとしてしかも服薬を二種使用致し居候。「千鳥」の原稿料御仰せの通にて可然しかるべくかと存候。「柳絮行りゅうじょこう」はつまらぬ由。小生もゆっくりと拝見する勇気今は無之候。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
お登和嬢「ハイ」と返事も軽く欣々きんきんとして台所へ立って行く。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
云うまでもない、彼は欣々きんきんと草庵を去っていった。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
欣々きんきんとして駈け出そうとした老神主を静かに呼びとめると、早乙女主水之介なかなかに兵法家でした。
「この古い門のなかに、欣々きんきん女史がいるのですかねえ。」
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)