梨畑なしばたけ)” の例文
水っぽい月が、邸のまわりのかしこずえにあった、後ろの山も、前の山も白い霧につつまれ、梨畑なしばたけの花から甘い香がただよってくる。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところがこの櫓は馬賊の来襲に備えるために、梨畑なしばたけの主人が、わざわざ家の四隅よすみに打ち建てたのだと聞いて、半分は驚いたが、半分はおかしかった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
梨畑なしばたけやぶどう畑の見られる仙台郊外を土樋どひというほうまで歩き回ったり、あるいは阿武隈川あぶくまがわの流れるところまで行ってみたりしたような、そんな静かな心は持てなかったのです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
明日あした梨畑なしばたけを見に行くんだと橋本から申し渡されたので、よろしいと受合った上、とこについたようなものの実を云うと例のトロで揺られるのが内心になった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
以前姉に連れられて見て廻った味噌倉も、土蔵の白壁も、達雄の日記を読んだ二階の窓も、無かった。梨畑なしばたけ葡萄棚ぶどうだな、お春がよく水汲みずくみに来た大きな石の井戸、そんな物は皆などうか成って了った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)