東北ひがしきた)” の例文
東北ひがしきたに開けた窓の外には、細くてしかもつよかしの樹の枝が隣家の庭の方から延びて来ていて、もうそろそろ冬支度ふゆじたくをするかのような常磐樹ときわぎらしい若葉が深い色に輝いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
どうもここから東北ひがしきたのように思われる、やっぱり海があって、海の中には数多たくさんの島があった、掠奪われた日は、暑い日の夕方だ、いそへ一人出て遊んでいると、珍らしい船が着いた
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼の墓は猫の墓から東北ひがしきたに当って、ほぼ一間ばかり離れているが、私の書斎の、寒い日の照らない北側の縁に出て、硝子戸ガラスどのうちから、しもに荒された裏庭をのぞくと、二つともよく見える。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから東北ひがしきたへと走っている嶺を伝わって下って行けば、ついには一つのながれに会う、その流に沿うて行けば大滝村おおたきむら、それまでは六里余り無人の地だが、それからは盲目めくらでも行かれる楽な道だそうだ
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
前の晩から天候が變つて、夜どほし寢室の窓の隙間すきまから、ヒユー/\音をたてゝ吹き込んでゐた、刺すやうな東北ひがしきたの風が、私たちを寢床ベッドの中でガタ/\ふるへさせ、水差みづさしの水を凍らせてしまつたのだ。