材能さいのう)” の例文
材能さいのう伎芸ぎげいを以て奉承するは男芸者の職分である。廉恥を棄てて金銭を貪るものとするは、そのあえてせざる所である。紫玉が花山を排したのは曲が花山にあったのである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
なまっているものは下席におらせる。それゆえ東京人、中国人などは材能さいのうがなくても重んぜられ、九州人、東北人などは材能があってもかろんぜられる。生徒は多く不平に堪えなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
もとより人間は貧乏だからと云って、その材能さいのうの評価を減ずることはない。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この詩を瞥見べっけんすれば、抽斎はその貧に安んじて、自家じか材能さいのうを父祖伝来の医業の上に施していたかとも思われよう。しかし私は抽斎の不平が二十八字の底に隠されてあるのを見ずにはいられない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
優は蕩子とうしであった。しかしのちに身を吏籍に置いてからは、微官におったにもかかわらず、すこぶ材能さいのうあらわした。優は情誼じょうぎに厚かった。親戚しんせき朋友ほうゆうのその恩恵を被ったことは甚だ多い。優は筆札ひっさつを善くした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)