暗中あんちゅう)” の例文
ところがだんだんとりおろして来て、いよいよ零に近くなった時、突然として暗中あんちゅうからおどり出した。こいつは死ぬぞと云う考えが躍り出した。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
されども、暗中あんちゅうながら、綸をみだすことも無く、力に従いて相闘いしかば、三十分許りの後には、船頭の助けを得て、沈を手元に引き留むるを得たり。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
今は疑ふべき心もせて、御坊様、と呼びつゝ、紫玉が暗中あんちゅうすかして、声するかたに、すがるやうに寄ると思ふと
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と雪江さんの吃驚びッくりしたような声がして、大方おおかた振向いたのだろう、かおの輪廓だけが微白ほのじろ暗中あんちゅうに見えた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
風紀を名として何もかも暗中あんちゅうにやってのけて——諸君、議会における花井弁護士の言を記臆せよ
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ピュッと水火両性すいかりょうせいがはじきあってとんだように、はねわかれた暗中あんちゅう二つのかげ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「キミちゃん居るかい」彼は暗中あんちゅうに声をかけた。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二人は暗中あんちゅうで顔を見合わせた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼の姿は列車の音と共にたちまち暗中あんちゅうに消えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小湧谷こわくだに大地獄おおじごくの音を暗中あんちゅうに聞いた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)