方嚮はうかう)” の例文
是等これらはおなじく、神経の雋鋭しゆんえいになつたための一つの証候であるが、これは気稟きひんに本づく方嚮はうかうの違ひであるとつていいだらう。
結核症 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
けはしきを行くことたひらかなる如き筆力、望み方嚮はうかうに從ひて無遠慮なるまで肢體の尺を縮めたる遠近法は、個々の人物をして躍りて壁面を出でしめんとす。
熔巖の流れ行く先なる葡萄の幹に聖母マドンナの像をけたるものあり。こはその功徳くどくもて熔巖の炎を避けんとのこゝろしらひなるべし。されど熔巖はその方嚮はうかうを改めず。
おもふに古代の日本人も「口吸」をあからさまにいふことが、得手でなかつたのかも知れぬ、宇治拾遺あたりの「口すひ」の語は、近世の洒落しやれ文学の方嚮はうかうに発達して行つた。
接吻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
併し奈何いかんともすることが出来ない。耳をすませば、火口のあるらしい方嚮はうかうに遠雷の如き鋭く鈍い音が無間断にしてゐるが、しかし単にそれだけで、あとは奈何いかんともすることが出来ない。
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)