斑点ぶち)” の例文
旧字:斑點
その顔を、凝乎じっと見ると、種々いろんな苦労をするか、今朝はひどく面窶おもやつれがして、先刻洗って来た、昨夕ゆうべの白粉の痕が青く斑点ぶちになって見える。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「お由良の肩の斑点ぶちを、俺はなぐった傷だと思うよ——毒で死んだのなら、口の中がどうかなっているはずだし、胸のあたりにも斑点が出るはずだ」
いみどりいろの顔面、相貌そうぼう夜叉やしゃのごとき櫛まきお藤が、左膳のしもとあとをむらさきの斑点ぶちに見せて、変化へんげのようににっこり笑って立っているのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
例の牛は土手にあがると、のそりのそりと曳子ひきこと一緒に歩いて行った。白の斑点ぶちはまるで雲のように鮮やかだった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
お増の家のすぐ近くの通りをうろついている犬に、細君はふと心をかれた。その犬の狐色の尨毛むくげや、鼻頭はながしら斑点ぶちなどが、細君の目にも見覚えがあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そんなところにころがつてるやうな斑点ぶちのあるかたつむりはいくら秋本でも食はれやしないものを。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
舟中の牛の背中にある白い斑点ぶちがやっと見えるくらい遠のいた時分に、男は乗客に聞えぬ低い声でささやいた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)