散華さんげ)” の例文
そして約三十分の間に、実に器用な夫人殺害と、屍体の空中散華さんげとをやって、八時頃なに食わぬ顔で帰ったのだ。どうだおそれ入ったか!
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
観心寺、龍泉寺、天野山金剛寺あまのざんこんごうじみね谷々の寨寺とりででらで、護国のかねが鳴りひびいた。正行、正時の霊を弔う鐘であった。折から降り出した満天の散華さんげは、白い春の雪とって——。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしながらあらゆる武勇伝を超えて国民絶讃の的となり、全都民の涙を絞らしめ、孫子まごこの末までの語り草となって残ったものは、帝都の空に散華さんげした体当り戦闘機の諸勇士であった。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
玉砕ぎょくさいという題にするつもりで原稿用紙に、玉砕と書いてみたが、それはあまりに美しい言葉で、私の下手へたな小説の題などには、もったいない気がして来て、玉砕の文字を消し、題を散華さんげと改めた。
散華 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かれて草に降るさまは婚禮の場の散華さんげなり
佐藤春夫詩集 (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
もし何か大危難だいきなんに遭遇したときは、一艇はかならず急いで地上へ戻ることとし、両艇とも散華さんげするようなことはせぬ、そしてその場合、山岸艇が地上へ戻り
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
諷経ふうきん散華さんげなどの式のあと、さらに禅門各大和尚たちの、起龕きがん念誦ねんじゅ奠湯てんとう奠茶てんちゃ拾骨しゅうこつ、——などこもごもな礼拝が行われ、さいごに宗訢そうきん笑嶺和尚の、偈辞げじが読まれ、笑嶺が満身から
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、焼けるそばから、鳥羽三層塔の建立も成就じょうじゅし、勝光明院や成勝寺は建てられ、天皇の臨幸、上皇の御幸など、そのつど、宝財は散華さんげとまかれて、今を、末法などと疑う者はいない。