掘立ほったて)” の例文
「じゃが、ご心配ないようにな、暗い冷い処ではありません——ほんの掘立ほったての草の屋根、秋の虫のいおりではありますが、日向ひなたに小菊もさかりです。」
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その空地が、一般街路に接する所、即ち福田邸専用通路のはずれに、時代に取残された人力車夫のたむろする、みすぼらしい掘立ほったて小屋がある。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかしその氷倉だという異様な恰好かっこうをした藁小屋にさえぎられて、その家らしいものの一部分すら見えないところを見ると、おそらく小さな掘立ほったて小屋かなんかにちがいなかった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
栗毛の、片眼で老いためすの馬が、ある晩遅く、若い頃博労ばくろうをやったことのある祖父と、父と二人して、っぱられてきた。そして長屋の背後に、小さい掘立ほったて小屋が作られて、馬は其処そこに入れられた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
入口の土間なんど、いにしえの沼の干かたまったをそのままらしい。廂は縦に、壁は横に、今も屋台は浮き沈み、あやう掘立ほったての、柱々、放ればなれに傾いているのを、かれは何心なく見て過ぎた。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)