扼腕やくわん)” の例文
血気勃々ぼつぼつたる大助は、かくと聞くより扼腕やくわんして突立つったつ時、擦違う者あり、横合よりはたと少年に抵触つきあたる。啊呀あなやという間にげて一間ばかり隔りぬ。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其からは落第の恥辱をすすがねばかぬと発奮し、切歯せっしして、扼腕やくわんして、はたまなこになって、又鵜の真似を継続してった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
扼腕やくわんし、たちまちのうちに志野も黄瀬戸もたちどころに再生させてみんと心をいら立てられたに違いない。
母を憎む扼腕やくわん瞿曇こども(それも今は愛誦すべき聖典の類ひか——)、同じ少年を乗せて飴色の広野を走る汽車の窓、黄昏の紫陽花色の雲のさ中を長々と横ざまに這ふ一匹の小蟹が見える
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
実にかのウェストミンスターの幽欝ゆううつなる積土の中に沈黙したる一個の死人はかえって議院壁内に起ちて扼腕やくわん撃節多々ますます弁ずるの衆多の生人よりも氏が進路を防障するものといわざるべからず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
姜維は扼腕やくわんしたが、楊儀は文吏ぶんりである。どうしようと色を失った。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)