戦慄ふるえ)” の例文
旧字:戰慄
栞をかかえている頼母の姿は、数ヵ所の浅傷あさでと、敵の返り血とで、蘇芳すおうでも浴びたように見えてい、手足には、極度の疲労つかれから来た戦慄ふるえが起こっていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
待ちには待っていたが、手厚く連れてこられるものとして待ちかまえていた女たちはそれを見ると戦慄ふるえた。
と寂しそうに御笑なすって、湧上がる胸の嫉妬しっとを隠そうとなさいました。御顔こそ御笑なすっても、深い歎息ためいき玻璃盞コップを御持ちなさる手の戦慄ふるえばかりは隠せません。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
善吉はしばらく考え、「どうなるんだか、自分ながらわからないんだから……」と、青い顔をして、ぶるッと戦慄ふるえて、吉里に酒を注いでもらい、続けて三杯まで飲んだ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
八日目に草臥くたびれて虎も昼寝するを見澄まし、ファッツ徐々そろそろ下りる音に眼をさまして飛び懸る、この時おそしかの時早くファッツが戦慄ふるえて落した懐剣が虎の口に入って虎を殺した
僕はひとりごちながらさっそく牛舎に行ってみた。熱もあるようだ。臀部でんぶ戦慄ふるえを感じ、毛色がはなはだしく衰え、目が闇涙あんるいんでる。僕は一見して見込みがないと思った。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その浮藻といえば面影やつれ、目には涙、唇には戦慄ふるえ、小鳥のようにおどおどしている。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三吉は独りで自分の身体の戦慄ふるえを見ていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)