おもひ)” の例文
新字:
北方の故郷に在りし間、常に我おもひ往來ゆききせしものはこの景なり、この情なり。嘗て夢裡に呑みつる霞は、今うつゝに吸ふ霞なり。
このおもひつぶさに云ひがたしで、隆吉は、刻み煙草に火をつけながら、ぽつぽつ家へ戻らうかと思つた。
崩浪亭主人 (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
わらつて呉れ。詩人に成りそこなつて虎になつた哀れな男を。(袁傪は昔の青年李徴の自嘲癖を思出しながら、哀しく聞いてゐた。)さうだ。お笑ひ草ついでに、今のおもひを即席の詩に述べて見ようか。
山月記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
さきにはタツソオの詩をして聞せ給ひしが、その句は今も我おもひ往來ゆききして、時ありては獨り涙をおとすことあり。そはわが泣蟲なるためにはあらず。
神曲に見えたるベアトリチエとの戀は、はやく九歳の頃より始りぬ。千二百九十年戀人みまかりぬ。是れダンテが女性の美の極致にして、ダンテはこれに依りて、心を淨めおもひたかうせしなり。