懊悩うるさ)” の例文
旧字:懊惱
その懊悩うるささに堪えざれば、手を以て去れと命ずれど、いっかな鼻は引込ひっこまさぬより、老媼はじれてやっきとなり、手にしたる針のさきを鼻の天窓あたまに突立てぬ。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お見舞に出なければ済まないと考へまする訳がございますからで、その実、上りますれば、間さんはかへつて私の伺ふのを懊悩うるさ思召おぼしめしてゐらつしやるのですから
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
綾子は茫然瞳を据えて、石に化せるもの数分時、俄然がぜん跳起はねおきて、「ああ、懊悩うるさい。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お通は清川何某なにがしとて、五百石を領せし旧藩士の娘なるが、幼にして父を失い、去々年おととしまた母を失い、全く孤独の身とはなり果てつ、知れる人の嫁入れ、婿れと要らざる世話を懊悩うるさく思いて
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
垢抜あかぬけして色の浅黒いのが、しぼりの浴衣の、のりの落ちた、しっとりと露に湿ったのを懊悩うるさげにまとって、衣紋えもんくつろげ、左の手を二の腕の見ゆるまで蓮葉はすはまくったのを膝に置いて、それもこの売物の広告か
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伯爵は懊悩うるさがり
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)