憤恚いかり)” の例文
男は憤恚いかり心頭に発して、思わず身をかがめて子供を手許へ引きよせたが、その瞬間にアッといって呪いの言葉も喉につかえた。
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
しかもその語尾は抑え切れない憤恚いかりにふるえているのが、玉藻にはよく判っているらしかった。二人の話はしばらく途切れた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
はづかしさに、涙にむせび、声を震はせ、「こは殿にはものに狂はせたまふか、何故なにゆゑありての御折檻ごせつかんぞ」と繰返してはきこゆれども、此方こなた憤恚いかりに逆上して、お村のことばも耳にも入らず、無二無三に哮立たけりた
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
兄弟の不和——それから出発して来た兄の憤恚いかりであるらしいことを、古入道の信西は早くもて取った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
顳顬こめかみのあたりがずきんずきんして、総身が憤恚いかりで酔っぱらっているようであった。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)