憂惧ゆうぐ)” の例文
即ち考えるという事は保守主義者の憂惧ゆうぐする所と反対の結果をきたして甚しく倫理的な人格が出来上るのである。
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
薩軍は怖れないが、彼の最も憂惧ゆうぐしたのはその問題だった。兵隊ひとりに七合二勺五才ずつ、二千五百八十名への割当を、どこから持って来て供与したものか。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
売るとなれば一寸の土も残らず渡して去らねばならぬので、最初から非常に憂惧ゆうぐし、ほとんど仕事も手につかず、昨日ずねて来た時もオド/\した斯老人の容子は余のむねいたましめた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
よほどうれしかったのであろう、またそれほどに今日までの一日一日が憂惧ゆうぐの底であったにちがいない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊にこの頃は晴の当日を気構えた若侍たちが、一心不乱に稽古しているので、その撓刀しない撃ちの音が、この寂光の奥殿まで聞こえてくるほどであったが、忠房の憂惧ゆうぐは少しも軽くならなかった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はて、大声の好きな奴だ。新見、もっと静かにせい——殿のお耳に入ってはよろしくない。さなきだに、若殿も大殿も、恟々きょうきょうとして暮して居られる。こんな些細な事で、今日一日、要らざる憂惧ゆうぐ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはまた、いたって、苦労も憂惧ゆうぐもないふうだ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)