愉悦ゆえつ)” の例文
私も近頃は、少しはける口でもあり、一家そろって、以前の貧苦を語り草に、晩の御膳でもいただいたら、どんなに愉悦ゆえつかわかりません。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のみならず僕のこの気持が奥さんに反映し、奥さんも僕と同様に苦しむことを知って、そこにも愉悦ゆえつを感じつつあるのです。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
官能的な刺戟しげきが全身を浸し、変態的な愉悦ゆえつにさえ駆られて、狂奮が、胸の血をわくわくと沸き立たせるのを感じるのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
だって僕は、あなた方さえ知らないような生の愉悦ゆえつを、こんな山の中で人知れずあじわっているんですもの。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
たましいは愉悦ゆえつのあまり自分の本来の状態を忘れつくして、唖然あぜんとして嘆賞しながら、日に照らされた物体のうちの最も美しいものに、すがりついて離れない——それどころか
とすれば、私を裸体にしてさまざまな姿態に置きかえることに限りない愉悦ゆえつを覚えていた夫の所作をも、ことごとく見て知っていたであろうことも想像できる。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
聞き入りながら、お松は頬に涙の筋を光らせて、しかもその甘い涙を愉悦ゆえつするかのように微笑ほほえんで
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこには浮世うきよの時間もなく空間もなく、たゞたゞ永劫無窮えいごうむきゅう愉悦ゆえつと光明とが溢れて居るばかりであった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こうして、京都への上洛は、もう何回になるか知れなかったが、彼の心裡をうかがえば、この旅行は彼にとって、大きな愉悦ゆえつでもあり、またその一度一度が、生涯を期する大事業でもあった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
コノ白イ美シイ皮膚ニ包マレタ一個ノ女体ガ、マルデ死骸ノヨウニ僕ノ動カスママニ動キナガラ、実ハ生キテ何モカモ意識シテイルノダト思ウヿハ、僕ニタマラナイ愉悦ゆえつヲ与エタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「いや、愉悦ゆえつだ、わしは話したい」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)