おもかげ)” の例文
なんにしろ明治四十一年の事とて、その頃は、当今の接庇雑踏せっぴざっとうとは異なり、入谷田圃いりやたんぼにも、何処かものひなびた土堤のおもかげが残っていた。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
有名な美貌の持主でしたが、一つは年、もう一つは、重なった不幸に打ちひしがれ、すっかりおもかげを変えていました。
後に歳をられてからの写真を新聞などで見ても、やはり、その時のおもかげがよく残っておって、母人ははびとよりも丸い方に私は思ったことだが……それはとにかく、三枝未亡人は
コックスのほうは深尾がおぼえているものときめこみ、長い脛を倒すようにして椅子に掛けると、まだ少年のおもかげのある優しい口元に微笑をうかべながら、勢いこんでしゃべりだした。
三界万霊塔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
一基の十字架の上に、緑の色の猶あざやかなる月桂ラウレオの環を懸けたるは、ロオザとマリアとの手向たむけなるべし。われは墓前にひざまづきて、亡人なきひとおもかげをしのび、更にかうべめぐらして情あるロオザとマリアとに謝したり。
新しく江戸の名所をここにおもかげだけでも留め得た。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)