怪訝くわいが)” の例文
智識と経験とが相敵視し、妄想と実想とが相争戦する少年の頃に、浮世を怪訝くわいがし、厭嫌えんけんするの情起り易きは至当の理なりと言ふ可し。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
自分の困憊こんぱいの状察すべしである。あたかも此時、洋燈ランプ片手に花郷が戸を明けた。彼は極めて怪訝くわいがに堪へぬといつた様な顔をして、盛岡弁で
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
突ツ立てるまゝ鋭き眼に見廻はし居たり、漆黒しつこくなる五分刈の頭髪燈火に映じて針かとも見ゆ、彼は一座怪訝くわいがおもてをギロリとばかりにらみ返へせり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その時の怪訝くわいがと同情とを一つにしたやうな心もちは、いまだに忘れようとしても、忘れる事が出来ない。
手巾 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お上さんは怪訝くわいがの目をみはつて聞いてゐた。そしてわたくしの語を解せざることやゝ久しかつた。無理は無い。かくの如き熱閙場裏ねつたうぢやうりに此の如き間言語かんげんぎよろうしてゐるのだから。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
全体の正面は開けた窓の硝子ガラスに日光がさして光つてゐる。この二つの密閉した窓丈が暗い。なぜだらうか。己が怪訝くわいがの念を禁じ得ずして立つてゐると、己の肩の上に誰やらの手が置かれた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
吾人は其の成功と不成功をあげつらはず、唯だ世人が如何に冷淡に此の題目を看過するかを怪訝くわいがしつゝあるものなり。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)