急坂きゅうはん)” の例文
彼らはえいえいと鉄条網を切り開いた急坂きゅうはんを登りつめた揚句あげく、このほりはたまで来て一も二もなくこの深いみぞの中に飛び込んだのである。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
急ぐうちにもどこか悠々として柵を越える場所を見廻してくると、やがて面前に見た急坂きゅうはんの上から、早足に駆け下りてきた人物があった。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして急にえとした山気さんきのようなものが、ゾッと脊筋せすじに感じる。そのとき人は、その急坂きゅうはんに鼠の姿を見るだろう。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
のめるような急坂きゅうはんだった。豪雨の日でもあればそのまま滝となるような道に、洗い出された石ころがもろい土にすがっている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてすぐ、八大神社の境内から、細い急坂きゅうはんを駈け下りて行った。坂を降りきった山裾の傾斜に下り松の辻はあった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するといっぽうの急坂きゅうはんからも、血路けつろをひらいた卜斎ぼくさいが、血刀ちがたなを引っさげてこの磯へ目ざしてきたので、ふたりは前後ぜんごになって磯の岩石がんせきから岩石を飛びつたい、やがて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蛾次郎がさいごの力をこめた飛礫つぶてがピュッと、燕作のこめかみにあたったので、かれは、急所の一げきに、くらくらと目をまわして、竹童のからだを横にかかえたまま、粘土ねんど急坂きゅうはんみすべって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこは石ころの多い沢の急坂きゅうはんにあたっている。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)