彼女かのおんな)” の例文
須永のそばにいる母として彼女かのおんなのことごとく見たり聞いたりしたところであるから、行き届いた人なら先方さきで何も云い出さない前に
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分を岡田の地位に置きたいと云うのは、彼女かのおんなの誘惑に身を任せたいと思うのではない。只岡田のように、あんな美しい女に慕われたら、さぞ愉快だろうと思うに過ぎない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
われわれはあの女たちを哀れと思う時にのみ、彼女かのおんなたちを了解し得るのだ。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
微笑ほほえみ光輝かがやきとに満ちていた。春風はゆたかに彼女かのおんなまゆを吹いた。代助は三千代が己を挙げて自分に信頼している事を知った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もしそうだとすると、彼女かのおんなが今になって兄の弟の私に会うのは、彼女にとってかえってつらい悲しい事かも知れない。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
美禰子に愛せられるという事実そのものが、彼女かのおんなハスバンドたる唯一ゆいいつの資格のような気がしていた。言われてみると、なるほど疑問である。三四郎は首を傾けた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宝石商の電灯は今硝子越ガラスごし彼女かのおんなの鼻と、ふっくらした頬の一部分と額とを照らして、はすかけに立っている敬太郎の眼に、光と陰とから成る一種妙な輪廓りんかくを与えた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女かのおんなは先刻と違って、別段姿勢を改ためるでもなく、そろそろ歩き出すでもなく、宝石商の窓へ寄り添うでもなく、寒さをしのぎかねる風情ふぜいもなく、ほとんど閑雅かんがとでも形容したい様子をして
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代助は死に至るまで彼女かのおんなに対して責任を負う積りであった。けれども相当の地位を有っている人の不実と、零落の極に達した人の親切とは、結果に於て大した差違はないと今更ながら思われた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幽霊のようにあわれな姿をした彼女かのおんなを伴れて戻った模様が述べてあった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)