形而上けいじじょう)” の例文
わが輩は凡人のなさけなさに、形而下けいじかの話をして夢を物とみなして長々しく弁じたが、形而上けいじじょうの思想の存在するをまったく心得ぬわけでもない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
十六になったら、僕という人間は、カタリという音をたてて変ってしまった。ほかの人には、気がくまい。わば、形而上けいじじょうの変化なのだから。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
哲学という語の狭い意味は、科学に対する哲学——認識論や、形而上けいじじょう学や、論理学や、倫理学や——を意味している。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
流沙河りゅうさがの水底では、何百かの世界観や形而上けいじじょう学が、けっして他と融和することなく、あるものは穏やかな絶望の歓喜をもって、あるものは底抜けの明るさをもって
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
神聖な教義を文字どおりに遵守じゅんしゅし、顔をちりに埋めてひれ伏し、音楽や詩や劇や形而上けいじじょう学などというさまざまの見地から唯一の神体を礼拝してる、忠実なる弟子でしらにたいして
たとえば惰性力ウィース・イネルティアエの法則は物理学でも形而上けいじじょう学でも同一であるらしい。
鯉は何故なにゆえに鯉なりや、鯉とふなとの相異についての形而上けいじじょう学的考察、等々の、ばかばかしく高尚こうしょうな問題にひっかかって、いつも鯉を捕えそこなう男じゃろう、おまえは。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
形而下けいじかの世にあると、形而上けいじじょうの世にあるとは、物を夢と見なすのと、夢を物と見なすの差があろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
即ちプラトンの思想によれば、実在は現実の世界になくして、形而上けいじじょう観念界イデヤに存するのである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
もっと、もっとと強い刺戟しげきを求めるのだ。けれども僕は臆病おくびょうで、なまけものだから、たいていは刺戟へのあこがれだけで終るのだ。形而上けいじじょうの山師。心の内だけの冒険家。書斎の中の航海者。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
肝腎かんじんなことは、プラトンとアリストテレスが、本質に於て全く一致しているということである。彼等は共に形而上けいじじょう学者であって、現象の背後に実在する、一の本体的なるものを求めた。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
錯覚された宇宙は、狐に化かされた人が見るのか。理智の常識する目が見るのか。そもそも形而上けいじじょうの実在世界は、景色の裏側にあるのか表にあるのか。だれもまた、おそらくこの謎を解答できない。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)