形体かたち)” の例文
旧字:形體
それは、色のない透明すきとおったものが光っているようでいて、そのくせどうも形体かたち明瞭はっきりとしていない、まるで気体のようなものでした。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
不思議にも、屠られた牛のいたましい姿は、次第に見慣れた「牛肉」という感じに変って行った。豚も最早一時いっとき前まで鳴き騒いだ豚の形体かたちはなくて、紅味のある豚肉とんにくに成って行った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さすがの花菊も、もうたいへんすたれ果てた年となっていたであろうが、お角力すもうは影の形体かたちを離れぬように、いつもぴったりと附いていた。御直参おじきさんならずものたちは口が悪いから、宅などへくると
…少なくとも、鐘声と一寸法師とが偶然の逢着でさえなければ、因果関係の結論として、いかなる形体かたちにせよ、聖堂の中へ残されたものがなければならない。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ものの形体かたち運動うごきのいっさいをみ尽してしまって、その頃には、海から押し上がってくる、平原のような霧があるのだけれど、その流れにも、さだかな色とてなく、なにものをも映そうとはしない。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)