引張出ひっぱりだ)” の例文
下らない往来なんかに引張出ひっぱりだしたのは私の間違いでした——彼はそう心の中で詫びながら、誰も目の前にはいないのだが、叮嚀ていねいに頭を下げて引とった。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
おのれはな汝はな。」と武者振附く三太夫を突飛ばして、座蒲団を引張出ひっぱりだし、棒ずわりの膝をくずして
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は母を評した兄のこの言葉を、暗い遠くの方から明らかに引張出ひっぱりだしてくる事が今でもできる。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お前さんが其の長安寺の和尚さんとも知らず、粂之助が私の弟ということも知らねえもんだから、旨い金蔓かねづるに有附いたと実ア其の娘をだまかして引張出ひっぱりだし、穴の稲荷の脇で娘を殺し
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そ、そんなら、さいを——人の見る前、夫が力ずくでは見っともない。貴方、連出して下さい、引張出ひっぱりだして下さい、願います。僕を、他人だなんて僕を、……妻は発狂しました。」
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と手を突いて詫入わびいるを、武士さむらいは無理無体に引張出ひっぱりだして廊下へ出る。田舎者は
尋ねてくものがあるから、おかしいぜ、此奴こいつ贔屓ひいきの田之助に怪我でもあっちゃあならねえと、直ぐにあとをつけてくつもりだっけ、例の臆病おくびょうだから叶わねえ、不性ぶしょうをいうお前を、引張出ひっぱりだして
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)