ほそどの)” の例文
其処は住居と云ふものの、手狭でもあれば住み荒してもあり、僅に雨露あめつゆしのげるだけだつた。乳母はこのほそどのへ移つた当座、いたはしい姫君の姿を見ると、涙を落さずにはゐられなかつた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
蒼ざめた月を仰ぎながら、二人は目見えのときに通った、広い馬道めどうを引かれて行く。はしを三段登る。ほそどのを通る。めぐり廻ってさきの日に見た広間にはいる。そこには大勢の人が黙って並んでいる。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その間に召使ひは一人も残らず、ちりぢりに何処かへ立ち退いてしまふし、姫君の住んでゐた東のたいも或年の大風に倒れてしまつた。姫君はそれ以来乳母と一しよにさむらひほそどの住居すまひにしてゐた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)