廂間ひあわい)” の例文
紙は見る間に燃えて行った。捨吉は土蔵の廂間ひあわいにあった裏の畠を掃く草箒くさぼうきを手にしたまま、丹精した草稿が灰にって行くのを眺めていた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
蔵の前の板の間に、廂間ひあわいの方から涼しい風の通って来るところをえらんで、午睡ひるねの夢をむさぼっている人があった。大勝の帳場だ、真勢さんという人だ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ようやく家の周囲まわりの狭い廂間ひあわいなぞに草の芽を見る頃に成って、引越の準備をするまでにぎ付けることが出来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
捨吉は井戸端で足をいてから、手桶の水を提げ、台所から奥座敷と土蔵の間を廂間ひあわいの方へ通り抜けた。田辺の屋敷に附いた裏の空地が木戸の外にある。そこが一寸花畠はなばたけのように成っている。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こんな話をしながら、お倉は吸付けた長煙管の口を一寸袖でいて、款待顔もてなしがおにお種の方へ出した。狭い廂間ひあわいから射し入る光は、窓の外を明るくした。すだれ越しに隣の下駄職げたしょくの労苦する光景さまも見える。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)