希有けぶ)” の例文
何をそわつくやら、尼も希有けぶなと思うとるうちに、おでん屋で聞いたそうな、一本松の方へ、この雨の降る中、うせたとな。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一体、悪魔を払う趣意だと云うが、どうやら夜陰のこの業体ぎょうていは、魑魅魍魎ちみもうりょうの類を、呼出し招き寄せるに髣髴ほうふつとして、実は、希有けぶに、怪しく不気味なものである。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また希有けぶなのは、このあたり(大笹)では、蛙が、女神にささげ物の、みの、かもじを授けると、小さな河童かっぱの形になる。しかしてあるものは妖艶ようえんな少女に化ける。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
売手は希有けぶな顔をした。が、ことば戦い無用なりと商売あきないに勉強で、すぐ古新聞に、ごとごとと包んで出した。……この中に、だらしのない別嬪が居るのだそうである。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや、照子さん。飛んだ事ですねえ。」とせんを取られていそそくれ、「え。」と照子は希有けぶ顔色かおつき
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一列ひとならび、むしろの上を六尺ばかり、ぐるりと廻る。手足も小さくあどない顔して、目立った仮髪かつらまげばかり。麦藁細工むぎわらざいくが化けたようで、黄色の声でせた事、ものを云う笛を吹くか、と希有けぶに聞える。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)