岡惚おかぼ)” の例文
「冷たくて、とんだいい心持だよ、さア一と思いに突いておくれ、——お前に殺されれば本望だ。何を隠そう、私は長い間、お前に岡惚おかぼれしていたんだよ」
これはそのはずで、文治は品行正しく、どんな美人が岡惚おかぼれをしようとも女の方は見向きもしないで、常に悪人をこらし貧窮ものを助ける事ばかりに心を用いて居ります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この人は、その頃、観音さまの裏の宮戸座に出ていた沢村伝次郎(いまの訥子とつし)に岡惚おかぼれしていた。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
二絃琴のおしょさん芦須賀さんは、その左団次が、若い時からの岡惚おかぼれだといってさわぎ出した。
あの下宿屋の若旦那わかだんなは役者よりも美くしいと其処そこじゅうの若い女が岡惚おかぼれしたという評判であった。
僕は実際無常を感じてしまったね。あれでも君、元は志村しむら岡惚おかぼれだったんじゃないか。
片恋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そんなことから方々に岡惚おかぼれを作った。「遊ぶ」と云う評判も取った。けれども元来が母恋いしさから起ったのに過ぎないのだから、一遍いっぺんも深入りをしたことはなく、今日まで童貞どうていを守り続けた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それであたしたちが助けにはいったのだが、花魁は旦那にすっかり岡惚おかぼれしてしまったと云っている。初心うぶな花魁がこんなことを云うのは珍しいことで、旦那にたんと可愛がってもらうつもりでいる。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「それとも何か岡惚おかぼれでも出来たというわけですかね。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「名山さん、お前岡惚おかぼれしておいでだッたね」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「だめですよ、岡惚おかぼれをなすっても」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「冷たくて、とんだいい心持だよ、さア一と思いに突いておくれ、——お前に殺されれば本望だ。何を隠そう、私は長い間、お前に岡惚おかぼれしていたんだよ」
はアさん、貴女あんた伊ーさんに岡惚おかぼれしてるんだろう。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
△「ハクショ岡惚おかぼッてるよ、この人は」