屍臭ししゅう)” の例文
ひどい旱魃かんばつがつづいて、諸国窮民きゅうみんにみち、道にあわれな屍臭ししゅうが漂い、都下の穀物は暴騰ぼうとうし、ちまたの顔は干からび、御所の穀倉すら貢物こうもつなく
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて二三日すると、屍体はあらかた引取られましたが、それでもまだ二三十体は残つてゐました。それがそろそろ屍臭ししゅうを発しはじめたのです。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
闇の中に、鼻をつく屍臭ししゅう、氷の様に冷え切った死体。目がなれるに随って、ほのかに浮出して見える、恐ろしい死人の顔。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
宇治はもとの部屋に戻って来ると柱によりかかり、大きく息をついた。その時気がついたのだが、奥の部屋からは既に屍臭ししゅうに似た臭いが立ち始めていたのだ。疲労が肩に重かった。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
おれは敗けてどうせ近く死ぬのだから、せめて君だけでも、しっかりやって呉れ、という言葉は、これは間違いかも知れないね。一命すてて創った屍臭ししゅうふんぷんのごちそうは、犬も食うまい。
姥捨 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ミイラみたいに固まったせいか。屍臭ししゅうは放っていなかった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
なぎさに沿って、二人はだいぶ歩いた。いつか夜の海だった。この日頃こびりついていた焦土の屍臭ししゅうも、やっと心から洗われたここちがする。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼻は屍臭ししゅうに馴れ、血に飽いた人間は、さらに、次の物をギラギラした眼で捜しあう。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)